バディファイト外伝「ワンダーランド・ウォーカー アリス」

バディファイト外伝 「ワンダーランド・ウォーカー アリス」

 

 相棒学園の中庭。
 そこには人だかりができていた。
 みな一様に屋上を見上げて、いったい何事かと言葉を交わしている。

「エマ! 出てきなさい! このアリスが会いに来たわよ!」

 人だかりの中心は、《アリス》と名乗った金髪の少女だった。彼女は屋上の縁すれすれに立つと、学園中に響き渡るような大声で叫び出し、今に至る。
「アリス様ぁ、もう少し静かに探しましょうよぉ」
 アリスのあまりの目立ちっぷりに、脇に控えていたウサギ耳の少年が涙交じりの声を上げた。
「おだまり! 今は一分一秒でも時間が惜しいの。地道に探してる時間はないのよ」
「何か問題が起きたら、またぼくが女王様に怒られちゃうよぉ」
「その時はあたしがどうにかするから、ヘンリーはそこで黙って見てなさい!」
 アリスに退く気がまったくないことを悟ると、ヘンリーは小さくため息をついて、これ以上の抵抗を止めた。ちなみにヘンリーの経験上、アリスがこう言ってどうにかなったことは一度もない。

「エマ! ここにいるのはわかってるんだからね!」

 学園に声がこだまする。
 その声が《彼女》に届くことを信じて、アリスは声を張り続けた。

◇     ◇     ◇

「今日も図書館でご本を読むですの」
「素敵な世界に出会えるといいわね」
 放課後。
 《夢語メル》は、バディの《赤ずきん エマ》と一緒に相棒学園の廊下を歩いていた。メルにとって放課後の読書は、一日の生活サイクルに欠かせない時間である。
 メルたちが中庭のそばを通りかかると、なにやら人だかりができていることに気づいた。人混みが苦手なメルは、そのまま通り過ぎようとするが、

「エマ! ここにいるのはわかってるんだからね!」

 聞き慣れた名前を呼ぶ声で、メルは足を止める。
「え、この声って」
 呼ばれたエマ本人は、声の主に心当たりがある様子だった。
「ごめんメル、ちょっと待ってて!」
「あ、エマ!」
 エマはそう言うと、駆け足で中庭に飛び出した。
 集まった人たちの視線の先、校舎の屋上に目をやると、そこにはエマが思った通りの人物がいた。
「アリス!? なんでここに!?」
 エマが驚きの声を上げると、その声に気づいたアリスが屋上から
 飛び降りる。一瞬、それを見た人たちが悲鳴を上げるも、アリスは地面に衝突する直前で、ふわっと重力に逆らうように浮き、そのまま着地した。
「エマ、探したわよ」
「アリス、ダンジョンワールドにいるはずじゃ……」
「それについては、ぼくから説明します」
「ヘンリー、あんたも来てたの!?」
「はい。お久しぶりです、エマ様」
 アリスの後ろから、ウサギ耳の少年、ヘンリーが姿を現した。ヘンリーは、コホン、とひとつ咳ばらいをすると、物語を聞かせるように話し出す。
「好奇心旺盛なエマ様が地球へと旅だってからというもの、残されたアリス様は毎日のように、エマ様のことを心配しておられました」
「別に毎日じゃないけどね」
「……ですが、エマ様もご存じの通り、アリス様には我らの国を守護する使命がありましたため、ずっとずっと、その思いを口にするのみで、会いに行くことはできなかったのです」
「そんなに口にしてないけどね」
「……そんなおり、あのステフ様が長い眠りから目覚めたのです。アリス様はここぞとばかりにステフ様に頼み込みました。その結果、『いいわ。一日だけ代わってあげる』と、ステフ様がアリス様のお仕事を引き受けてくださったのです」
「頼み込んではないけどね」
「……かくして、我らが女王様から一日だけダンジョンワールドを離れることを許されたアリス様は、ここ地球へ、エマ様の元へやってきたというわけです」
 ヘンリーは話し終えると、再びアリスの後ろへと下がる。
「ま、ざっくり言うとそういうことよ」
「アリス……」
「エマ、単刀直入に言うわよ。ダンジョンワールドに帰って来なさい。クリスタやステフ、それに……あ、あたしも、知らない土地で一人のあんたを心配してるんだから」
「……っ!」
 アリスの真っすぐな瞳に、エマは言葉を詰まらせた。
 それが嘘偽りない、アリスの心からの気持ちだと伝わったからだ。
 と、そこに、
「――エマ、その人、お知り合いですの?」
 恐る恐る物陰から様子を窺っていたメルが声を出した。その声を聴いて、動揺していたエマの心は、スっと落ち着きを取り戻す。自分が今どうしたいのか。それはとうに、決まっていた。

「――ごめんねアリス。私は、ダンジョンワールドに帰ることはできない」

「なっ――!?」
 エマはそう言うと、メルの元に駆けよった。
「メル! あの子はアリス、私の幼馴染で大親友なの」
 エマはアリスのことを紹介すると、続いて、アリスにメルを紹介する。
「アリス! この子はメル。私のバディよ」
「――あの、夢語メルっていいますの」
 メルも自己紹介をするが、それに対してアリスは、鋭い眼差しで睨みつける。すると、引っ込み思案のメルは縮こまってしまう。
 エマはアリスの態度に文句を言おうとするが、その前に、

「君が学園中で噂になってる美少女ちゃんかーい?」

 片目を眼帯で隠した少年が、人混みをかき分けて近づいてきた。
「あんた誰?」
 アリスがその少年に視線を移す。
「オレ様はダ★ダーン! 超人気イケメンカリスマ友チューバ―だっ!」
 決めポーズで得意げな笑みを浮かべるダ★ダーンだったが、アリスは興味なさげに言葉を返した。
「ゆーちゅーばー? 今あたしはそれどころじゃないの。どっか行ってくれる」
「まぁまぁちょっと待ってくれよ。キミ、名前は?」
「アリスだけど」
「アリスちゅわーん、オレ様と一緒に動画に出て、人気者になる気はないかーい?」
「ないわ」
「いやいやいや待って待って待って! キミとオレなら、間違いなく友チューバ―界のトップ、いや、キングとクイーンになれる! その名誉が欲しいだろ?」
「いらないわ」
「ちょっとちょっと! ちっ、こうなったら、力ずくでも動画に出てもらうよーん。ブラッディ・アイズ!」
 ダ★ダーンが名前を呼ぶと、後ろから、バディのブラッディ・アイズが姿を現す。黒のコートに紅蓮の翼を持った竜人である。
「我が力、その身に受けよ」
「っ!?」
 ブラッディ・アイズがその右手をアリスへと振るった。
 不意の出来事に、アリスは対応できない。
 その時、

「あぶない!」

 エマがアリスの前に飛び出して、ブラッディ・アイズの一撃を代わりに受けた。
「うっ……!」
 反動で数歩後ずさり、エマはその場に倒れ込む。
「おいおい、邪魔すんじゃねーよ! 雑魚は引っ込んでろっつーの」
 ダ★ダーンの卑劣な行為と言葉に、アリスは頭に血が上った。その勢いのまま、やり返そうと拳を握るが、

「エマは雑魚じゃないですのっ!!! 世界で一番強くて優しい、メルの最高のお友だちですのっ!!!!!!!」

 さっきまで物陰から様子を窺っていた子が、
 さっきまで小さな声で恐る恐る話していた子が、
 バディのために、エマのために、声を大にして怒った。
 そのあまりの気迫に、頭に血が上っていたはずのアリスでさえも圧倒され、言葉を失ってしまう。
「な、なんだよお前は!」
 ダ★ダーンは若干ビビりながらも言い返す。
「メルはメルですの!」
「あー、確かABCカップの出場者にそんなやつがいたな」
「謝れですの」
「あ?」
「エマに謝れですのっ!!!!」
「ふ、ふん、やだね! バディの強さなら、オレのブラッディ・アイズが世界最強なんだよ! それに、突然前に出てきたそっちが悪いっつーの!」
「勝負ですの」
「はい?」
「バディファイトで勝負ですの! もしメルとエマが勝ったら、さっきのこと、全部謝ってもらいますの!」
 そこに、しばらくあっけにとられていたアリスも口をはさむ。
「その勝負、あたしも力を貸すわ。あたしも関係あることだし、いいわよね?」
 ダ★ダーンは少し考えて、いいことを思いついた、と悪い笑みを浮かべる。
「いいだろう。ただし、こっちが勝ったら、アリスちゅわんにはダ★ダーンチャンネルに出てもらう。それでどうだ?」
「いいわよ」
 アリスは即答するが、メルは申し訳なさそうに聞き返した。
「え、いいんですの? これはメルが勝手にしたことなのに……」
「いいのよメル。あたしもアイツにはあったまきてるんだから。ぶっ飛ばさないと気が済まないわ。それとエマ、いつまでダメージを受けたふりしてるのよ。あんたがあの程度で動けなくなるわけないでしょ」
「えへへー、バレてたかー」
 倒れ込んでいたエマは、すくっと立ち上がると、恥ずかしそうに頬をかいた。
「エマ、大丈夫ですの!?」
「うん、大丈夫よ。本当はもっと早く起きれたんだけど、二人がすごい真剣だったから、つい、ね」
「よかったですの……」
 心からほっとした様子のメル。
「じゃあやるわよ、エマ、メル」
「うん!」
「はいですの!」
 アリスの号令で、三人揃ってダ★ダーンと向き合う。
「こっちも準備万端だぜ。ほらよ!」
 ダ★ダーンとメルは、ファイトシステムを起動した。すると、見る見るうちにファイトステージが展開され、Ⅴボードが両者の手元に現れた。

「むかしむかし、あるところに、こんなお話がありました。ルミナイズ……アインス・フォン・メルヘン!」

「竜血師団、ダ★ダーンっと登場! ルミナイズ、竜血の悪夢 ブラッディ・ナイトメア !」

「「バディーファイッ! オープン・ザ・フラッグ!」」
 メルがフラッグを表にする。
「ダンジョンワールド!」
 続いて、ダ★ダーンがフラッグを表にする。
「ドラゴンワールド!」
 こうして、2人のファイトが開始された。

「オレ様のターン! ドロー! チャージ&ドロー! いくぜ、ゲージ2を払って、《†竜血眼† ブラッディ・アイズ》をセンターにバディコール!」
 【ダ★ダーンライフ・10→11】
「竜血眼は読むな」
「あ、わりぃ。さぁ、気を取り直してファイターにアタックだ!」
「我が魂の一撃、受けるがいい!」
 ブラッディ・アイズの一撃が、メルを直撃する。
 【メルライフ・10→8】
「オレ様のターンは終了だよーん」

「メルのターンですの! ドロー! チャージ&ドロー! 装備、《幻想童話 エヒト・ビブリオ》」
 メルは不思議な形をした分厚い本を手にした。
「ライフ1を払って、キャスト! 《グリム・アッシェ》! デッキの上4枚から、《人食い狼 ヴォルフ》、《トランプ・ソルジャー クライン隊》、《ワンダーランド・ウォーカー アリス》の3枚をエヒト・ビブリオのソウルに!」
 【メルライフ・8→7】
「ゲージ1を払って、《急ぎ足の白うさぎ ヘンリー》をセンターにコール!」
「ぼくの出番だね! これを手札に加えるといいよ!」
 ヘンリーがセンターに登場する。ヘンリーが指先を動かすと、デッキからカードが1枚、メルの手札へと加わった。
「ありがとうですの。キャスト、《ハピネス・ワンダーランド!》を設置! これで行くですの!」
「ばぁーか! ブラッディ・アイズの能力発動! ヘンリーの能力を無効化して、強制攻撃させるぜ!」
「あわわわわ身体が勝手に」
 ヘンリーが勝手にブラッディ・アイズを攻撃する。ぽかぽかとがむしゃらに叩いては見るものの、その攻撃では傷ひとつ付けられない。
「ブラッディ・アイズ、反撃だ!」
「漆黒に堕ちよ」
「うぎゃぁ!」
 逆にブラッディ・アイズが腕を振るうと、ヘンリーはいとも簡単に破壊された。
「エヒト・ビブリオの能力! ヘンリー、ご本の中に戻って!」
「助かりますぅ」
 【メルライフ・7→6】
 破壊されたヘンリーは光となって、メルの装備したエヒト・ビブリオのソウルへと入る。
「それだけじゃねぇぜ! ブラッディ・アイズは効果で相手モンスターを破壊した時、相手にダメージ1を与える!」
「うっ……!」
 【メルライフ・6→5】
「まだですの! メルヘン・パニック発動! エヒト・ビブリオのソウルから、《人食い狼 ヴォルフ》をレフト、《トランプ・ソルジャー クライン隊》をセンター、《ワンダーランド・ウォーカー アリス》をライトにコール!」
 メルがエヒト・ビブリオを開くと、その中から、アリスとトランプ・ソルジャー、そしてヴォルフが飛び出した。
「さぁぶっ飛ばすわよ!」
「あいあいさー!」
「喰らってやるぜ!」
 出てきたモンスターを見て、ダ★ダーンは鼻で笑った。
「ブラッディ・アイズの防御力は8000! そんな雑魚どもじゃ相手にならないっつーの!」
「アリスの能力発動ですの! トランプ・ソルジャーをハピネス・ワンダーランドのソウルに入れますの! そして効果で2ドロー!」
「だからどうしたよ」
「ハピネス・ワンダーランドのソウル1枚につき、童話のカードの攻撃力は+5000されますの!」
「マジぃ!?」
「ヴォルフ、ブラッディ・アイズをアタックですの!」
「任せとけ! どらぁ!」
「この痛み、我が力に」
 ヴォルフの剛腕がブラッディ・アイズを破壊するも、ブラッディ・アイズはソウルガードで耐え、反撃でヴォルフを破壊し返した。
 だが、
「ヴォルフは破壊された時、相手モンスターも破壊するですの!」
「道連れだぜぇ!」
「我が魂はまだ尽きぬ!」
 【メルライフ・5→4】
 破壊されたブラッディ・アイズは、再びソウルガードで場に残り、効果でメルのライフを削る。
 メルはダメージをものともせず、手にした本を持ち上げた。
「これでもくらえですの!」
「うおぉ!?」
 メルはエヒト・ビブリオをブラッディ・アイズに投げつけた。エヒト・ビブリオの角がブラッディ・アイズの脳天に直撃する。ブラッディ・アイズはソウルガードで場に残るも、たまらずによろめいた。
「ぐ……痛い」
 メルは反動で戻ってきたエヒト・ビブリオを拾い上げると、手札の一枚を高々と掲げた。
「アリスのもう一つの能力発動ですの! 手札の《ムーンライトフルール エマ》を、センターにバディコール!」
 【メルライフ・4→5】
「いくわよエマ!」
「もちろんよアリス!」
 エマとアリスが並び立つ。
 対して、ブラッディ・アイズのソウルは0枚。さすがにヤバいと悟ったのか、ダ★ダーンは急に焦りだした。
「おいおいブラッディ・アイズ、なんとかしてくれよん!」
「我には、何もできず……」
「そこをどうにかするのがバディだろ! サイテーだな!」
 口喧嘩を始めたダ★ダーンとブラッディ・アイズだったが、メルの声がそれを遮った。
「これで終わりですの! エマでブラッディ・アイズにアタック! 効果でドロップのカード1枚をハピネス・ワンダーランドのソウルに入れますの!」
「これでさっきの貸しは返すわ!」
「無念……!」
 エマの蹴りがブラッディ・アイズに決まり、ついに完全破壊となった。これで、ダ★ダーンを守るものはもう何もなくなる。
「エマ! 2回攻撃! その効果によってハピネス・ワンダーランドのソウルが3枚になり、童話のカードの打撃力+2ですの!」
「あんたにもお返し!」
「ぐぇ!」
 【ダ★ダーンライフ・11→8】
「アリス、お願いですの!」
「ぶっ飛ばすわ!」
 アリスは手に持ったハンマーを振りかぶり、ダ★ダーンに全力で叩きつける。
「ぐひょぉ!」
 【ダ★ダーンライフ・8→4】
「アリスの能力! エマをハピネス・ワンダーランドのソウルに入れて、スタンドですの!」
「アリス、あとは任せたわよ!」
「まっかせなさいっての!」
 エマとアリスがハイタッチを交わすと、エマはハピネス・ワンダーランドのソウルへ、アリスは2度目の攻撃をするべくダ★ダーンへ、それぞれ逆方向へと飛び出した。
「これで終わりよ!」
「まだだ! キャスト! 《ドラゴンシールド 緑竜の盾》!」
 アリスが再びハンマーを振るうも、ダ★ダーンの手から現れた盾がその攻撃を防ぐ。
 【ダ★ダーンライフ・4→5】
「ふぅ、あぶなかったぜぇ。だが、これで攻撃できるカードは残ってない! 次のオレ様のターンで仕留めてやるぜ!」
「それはどうかしらね?」
「あ?」
「あたしの本気は、まだまだこんなもんじゃないんだから!」
 アリスが言うと、メルが手札の1枚を取る。
「アリスを破壊して、《ワンダラー・アリスドラゴン》をセンターにコール!」
 カードの発光と同時、アリスの長い金髪が重力に逆らって浮き始めた。次第にアリス自身も地面から離れ、完全に宙に浮くと、金色の光がその身を包む。
 ダ★ダーンはあまりの眩しさに目を瞑る。次にダ★ダーンが目を開けた時、そこには、美しい青色の翼竜が羽ばたいていた。
「なんだこりゃぁ」
「これがあたしの本気の姿、アリスドラゴンよ!」
「ドラゴンってか、“グリフォン”じゃねーか!」
「うっさいわね! ぶっ飛ばすわよ!」
「ひぇぇぇ!」
 ドラゴン形態で怒鳴られた迫力に、ダ★ダーンは腰を抜かした。
「アリスドラゴンは、ハピネス・ワンダーランドのソウルにあるトランプ・ソルジャーの数だけ打撃力が上がりますの。今、ソウルのトランプ・ソルジャーの数は2枚。ハピネス・ワンダーランドの効果と合わせて、打撃力は4ですの! アリスドラゴンでファイターにアタック!」
「あたしの全力、その身で受けなさい!」
「お、お助けぇ! 緑竜の盾!」
 【ダ★ダーンライフ・5→6】
 ダ★ダーンはもう一度緑竜の盾を使い、攻撃を防ぐが、
「2回攻撃!」
 続けざまのタックルが、ダ★ダーンにヒットした。
「ぎょええぇ!」
 【ダ★ダーンライフ・6→2】
「3回攻撃!」
「これでトドメよ!」
アリスドラゴンは旋回すると、ダ★ダーンに狙いを定め、勢いをつけて突進した。
「やめろおおおおおおお!!」
 そう叫んだ次の瞬間には、アリスドラゴンの巨体が、ダ★ダーンを吹き飛ばしていた。
 【ダ★ダーンライフ・2→0】

◇     ◇     ◇

 幼き日のことを思い出す。
 アリスとエマは、小さいころからいつも一緒にいた。
 一緒に遊んでいるとなによりも楽しかったし、一緒に食べたお菓子は世界一おいしかったし、一緒に寝た夜はどこよりも安心できた。
 そうやって二人で一緒にいた、幼い日。
 アリスやエマの種族は、人型の姿とは別に、“ドラゴン”としての姿を持つ。アリスは成長していく中で、自分の姿が、いわゆる一般的な“ドラゴン”とは少し違うことに気づいた。
 周りも当然そのことに気づき、『できそこない』『仲間外れ』『落ちこぼれ』だのと、陰口を囁きだした。
 そんな陰口は聞かないふりをしていたアリスだったが、

「アリスは何も変じゃないわよっ!!! 世界で一番綺麗で誇り高い、私の最高の親友なんだからっ!!!!!!!」

 エマは、陰口を言っていた連中に真正面から怒った。
 怒ってくれた。そしてそれ以来、アリスのことを悪く言う者はいなくなった。それどころか、じょじょに実力が認められるようになると、国の守りを女王に任せられるほどになったのだった。
 その出来事があって、アリスは“ドラゴン”としての自分を好きになることができた。誇りを持つことができた。
 あの幼き日の出来事は、たぶん一生忘れないだろう。

 アリスにとって、エマは唯一無二の親友だ。

 エマの思いは、何よりも尊重したい。エマが『新しい世界を見てみたいの!』と言い出した時も止めなかった。
 でもやっぱり、実際にエマがそばからいなくなると、日に日に寂しさは募っていったし、見知らぬ世界で一人ぼっちになっていないかと、心配で仕方がなかった。
 だからいろんな人に頼み込んで、地球へと様子を見に来た。本当は連れ戻したかったけれど――

◇     ◇     ◇

「――あんたにも、怒ってくれる人ができたんだ」
「え? なになに?」
「なんでもないわよ!」
「えー聞かせてよー」
「うるさいわね、それ以上訊いたらぶっ飛ばすわよ!」
「では、ぼくが代わりにアリス様の言葉を――いででででで」
「ウサギの耳すごいですの! 本物ですの!」
「引っ張らないでくださいぃ!」
「自業自得ね」
 アリスとヘンリー、エマとメルの4人は、帰路についていた。ダ★ダーンはファイトに負けるや否や、一目散に逃げだした。結局謝らせることができなかったことにメルは不満げだったが、エマ自身がこの結果に満足しているということで、一件落着となった。
 夕日が一日の終わりを告げるように、4人を赤く染めている。
「それじゃ、あたしたちはダンジョンワールドに帰るわ」
「アリス、久しぶりに会えて嬉しかったわ」
「あ、あたしも、うれしかった」
 アリスは照れ臭そうに目線をそらす。
 エマはそんなアリスに対して、少し後ろめたくなりながらも、自分の気持ちを正直に伝える。
「……ごめんね。でも、私はまだメルと一緒にいたいの」
「そのことは、もういいのよ」
「え?」
「あたしの心配は杞憂だったって、わかったからね」
 アリスの言葉に、迷いはなかった。
「メル、エマをよろしくね」
「はいですの。メルとエマは、ずっとお友だちですの」
 メルの言葉に、アリスは嬉しい反面、どこか寂しさも感じていた。そんなアリスの気持ちを知ってか知らずか、メルがアリスの手を取った。
「今日からはアリスもヘンリーも、メルのお友だちですの!」
「なっ――ふ、ふん。まぁ、友達になってあげなくもないわ!」
 不意を突かれたアリスは声を上ずらせながらも、精いっぱい強がってみせた。自分の顔を隠すように、アリスは踵を返す。
「じゃ、じゃあ帰るわよヘンリー!」
「それではエマ様、メル様、ごきげんよう」
「うん。またね、アリス、ヘンリー!」
「また遊ぶですの!」
 “また”。アリスはその言葉に、足を止めた。
「ええ、また来るわ。その時は、ゆっくりお茶してあげてもいいわよ!……3人でね」
 メルとエマは顔を見合わせて、笑った。
 その一方で、ヘンリーが頬を膨らます。
「えぇ、それ絶対ぼく入ってないですよねぇ……」
「うっさいわね! あんたまたついてくる気!?」
「当然。アリス様がやらかさないよう見守るのがぼくの役目ですから」
「じゃあ次に会う時は、4人でティーパーティーね!」
「エマは勝手に話を進めないで――」

 こうして、アリスの長い長い一日は、幕を閉じたのだった。

 

 

<文:校條春>

 

《ワンダーランド・ウォーカー アリス》はフューチャーカード 神バディファイト アルティメットブースター 第4弾「バディアゲイン Vol.1~ただいま平成ファイターズ~」に収録!

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