バディファイト外伝 「牙王 &カナタ」
「よう! 久しぶりだな、カナタ」
「牙王も、元気そうだね」
相棒学園。
一時は名前が《ワールド・バディ・アカデミア》と変わっていたその校門前で、《未門牙王》と《大宇宙カナタ》の2人は落ち合った。
「あとどれぐらい日本にいるんだい?」
「今日で最後だ。明日には出る」
「そっか。人気者は大変だね」
「別に大変だって思ったことはねぇ。俺は俺のために、バディファイトをやりにいくだけだからな。それに、お前の方が忙しいんじゃないのか?」
「まぁ、僕も好きなことを全力でやってるだけだから、あまり大変だとかは思ったことないなぁ」
「だよな」
「うん、そうだよね」
「よし。じゃあさっそく、ファイトステージにいこうぜ!」
「もちろん。でも、よく許可が下りたね。しかも貸し切りなんて」
「まぁ、そこはいろいろとな。せっかくカナタと時間が合ったんだ。やっぱりファイトするなら、“ここ”だと思ってよ」
「ありがとう牙王。実は僕、こんなに興奮してるのは久しぶりなんだ。牙王とのファイトを思い出すと、今でも体中を熱が駆け巡る」
「俺もだぜ。カナタとのファイトは、最高に楽しいからな!」
「でも、今度こそ僕が勝つよ」
「そうはいくか! 俺が勝たせてもらうぜ」
「知ってるよ牙王。友牙くんに負けたんだってね」
「げ。なんで知ってんだよ」
「腕がなまってるんじゃないのかな。僕が叩き直してあげるよ」
「へっ、望むところだ!」
二人は拳を突き合わせると、笑い合う。
いつかの日に、互いの全力をぶつけ合った者同士。
あの日々の続きが、今始まる。
◇ ◇ ◇
相棒学園のファイトステージ。
静まり返ったその場所で、2人のファイターが向かい合う。
「いくぜ、バッツ」
「おう、久しぶりに腕が鳴るぜ」
牙王の隣には、伝説の魔王竜《バッツ》がSD形態で腕を組む。
「今度こそ勝とう、アトラ」
「そうだね、カナタ」
カナタの隣には、美しきプリズムドラゴン《アトラ》がSD形態で立っている。
2人はデッキを取り出すと、ルミナイズした。
「見せるよ、大宇宙を翔けるチームプレイ! ルミナイズ、ドラゴンズ・クレセール!」
「照らせ太陽! 轟け雷鳴! 我が王道はここにあり! ルミナイズ、竜炎雷陽団!」
「「バディーファイッ! オープン・ザ・フラッグ!」」
カナタがフラッグを表にする。
「スタードラゴンワールド!」
続いて、牙王がフラッグを表にする。
「ドラゴンワールド!」
ファイトは、牙王の先攻で始まった。
「ドロー! チャージ&ドロー! キャスト、《ストーム・スピリッツ》! 手札1枚を捨てて、デッキの上5枚から雷帝軍のモンスターかアイテム2枚を手札に加え、残りをゲージに! 続けて、ゲージ1を払い《太陽拳サンブレイズ》を装備!」
牙王の右手に、金と黒で彩られた鉄拳が装備される。
「行くぜカナタ!」
「ああ、受けて立つよ」
牙王は勢いよく飛び出して、カナタの目の前まで一気に肉薄すると、サンブレイズで殴り掛かる。
「はぁ!」
「ぐっ……!」
【カナタライフ・10→8】
攻撃を受けたカナタは数歩後ろに下がるも、闘志を称えた瞳で牙王を見据える。
「まだまだ、これからだよ」
「あったりめぇだ! 俺のターン終了!」
「僕のターン。ドロー! チャージ&ドロー! いくよ、アトラ!」
「任せて、カナタ!」
「ゲージ3を払い、《
【カナタライフ・8→9】
カナタの隣から、SD形態のアトラがセンターエリアへと飛び出す。その体は光に包まれ、一瞬のうちに七色の巨大なドラゴンへと姿を変えた。
「私達の連係プレーを見せてあげるよ!」
カナタはさらに、手札のカードを連続で使っていく。
「キャスト! 《エンハンスメント》、《スタージャック・ブースト》! その効果でゲージと手札を増やす! さらに、ライフ2を払い《
カナタの足に、ダイヤモンドのスパイクシューズが装備され、その足元に、ダイヤモンドのサッカーボールが現れる。
「さぁ、キックオフだ」
「いつでもいいぜ! カナタ!」
「僕たちが到達した攻撃的ファイト、見せてあげるよ。アタックフェイズ! アトラをライトに移動!」
アトラが飛翔し、その巨体をセンターエリアからライトエリアへと移動させる。これにより、カナタと牙王の間を邪魔するものはなくなった。
「アトラがライトに!?」
カナタは足元のボールを軽く蹴り上げる。ボールは高く飛ぶと、やがて重力に従い降下した。カナタは落ちてきたボールを、牙王に向けて思いっきり蹴り出した。
「たぁぁぁぁぁぁっ!」
空を切り轟音を鳴らす速球が牙王に迫るが、
「させるか! キャスト、《ラウドヴォイス》! 手札2枚を捨てて、相手の場のカード全ての打撃力を-2だ!」
牙王が手にした魔法カードから、激しい音波が放たれる。その音波により、ボールは次第に勢いを弱め、ついにはカナタの元へと弾き返された。
「これで、お前の場のカードは全て打撃力0。俺にダメージを与えられるカードはなくなったな」
「そうだね。でも、僕の攻撃はまだ終わっていないよ! ファイナルフェイズ!」
「なんだと!?」
「キャスト! ゲージ2を払い、《ファンタジック・ファイナル・カウンターシュート》!」
「新しい必殺技……!?」
「その効果により、このターン終了後、もう一度僕のターンを行う! ただし、そのターンではメインフェイズが行われない」
「くっ……一度ターンが終わるってことは……」
「そう。ラウドヴォイスの効果は消え、僕にもう一度アタックフェイズが来る。いくよ、僕のターン! ドロー! チャージ&ドロー! このままアタックフェイズだ!」
「ここで負けるわけにはいかねぇ! キャスト! ゲージ1とライフ2を払い、《ドラゴトラップ》! アトラを攻撃不能にするぜ!」
【牙王ライフ・10→8】
アトラが見えない力で拘束される。
「くっ、でも私は、まだカナタをサポートできる!」
「そうだね、アトラがサポートしてくれるなら、僕はどこまでだっていける。まずは1発目。たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カナタは再び、渾身の力でボールを蹴る。
牙王は腕を顔の前で交差させて、防御の体勢をとった。
「ぐっ……!」
【牙王ライフ・8→6】
ボールは牙王にヒットし、反動で跳ね返ったボールを、アトラが頭でキャッチする。
「まだまだこれからだよ、牙王。アトラの能力発動! ソウル1枚を捨てて、僕のアイテム、ダイヤモンド・スパイクをスタンドさせる! さらに1ドロー!」
「カナタ、いくよ! それ!」
アトラが頭上のボールを、カナタに向かって放り投げる。ボールは寸分の狂いもなく、カナタの右足元に吸い寄せられていく。
「2発目。シューーーーートッ!」
カナタはアトラからパスされたボールを、そのまま牙王へと蹴った。ボールはものすごい勢いで飛び、再び牙王にヒットする。
「くッ……っ!」
【牙王ライフ・6→4】
「アトラ!」
「任せて、カナタ!」
跳ね返ったボールをアトラがキャッチし、カナタにパスする。カナタはもう一度牙王に狙いを定め、ボールを蹴る。
「3発目。たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うっ……!」
【牙王ライフ・4→2】
「次で最後だ。アトラ!」
「これで決めよう、カナタ!」
再び跳ね返ったボールを、アトラがカナタへとパスする。カナタはこれまで以上の気合を入れて、ボールを蹴り出した。
「4発目。いっけえええええええええええええっ!!」
打ち出されたボールは一直線に牙王へと迫るが、
「まだだ、まだここじゃ終われねぇ! キャスト! ゲージ1を払い、《ドラゴンシールド雷竜の盾》! 攻撃を無効にし、1ドローだ!」
牙王の前に現れた巨大な盾が、迫りくるボールを跳ね返した。
「ふぅ……ファイトはこっからだぜ、カナタ」
「この攻撃を凌ぎきるなんて、さすが牙王だね。でも、手札は残り2枚。僕のライフを削り切れるかな?」
「そんなの、やってみなくちゃわからねぇ」
「なるほどね……僕のターンは終了だ」
「俺のターン! ドロー! チャージ&ドロー! いくぜ! ゲージ2を払い、《雷陽団団長 バールバッツ・ドラグロイヤー》をライトにバディコール!」
【牙王ライフ・2→3】
SD形態のバッツがライトエリアへと飛び出す。すると、バッツの体を光が包み込み、次の瞬間には、雷帝軍を統べる巨大な竜となる。
「我が名はバールバッツ・ドラグロイヤー。太陽と共に王道を行く最強の雷帝竜様だぁ!」
「頼むぜ、バッツ!」
「誰に向かって言っている!」
「へっ、そうだな!」
「勝つぞ、牙王!」
「おう! アタックフェイズだ!」
構える牙王とバッツ。
それを見て、カナタはアトラに指示を出す。
「アトラをセンターに移動!」
「カナタは私が守る!」
アトラがセンターエリアへと降り立つ。
「バッツ、アトラにアタックだ!」
「覚悟しろ、トカゲ野郎!」
バッツは地を蹴り、手に持った大剣でアトラへと迫る。
だが、
「やらせるものか、キャスト! 《アステリズム・エフェクト》! 手札2枚を捨てて、このターン中、アトラは破壊されない!」
カナタの額に雪結晶のような紋章が浮かび、アトラの周囲には半透明のバリアが貼られた。バッツの大剣がバリアに直撃するも、びくともしない。
「くっ、ダメか」
「まだだバッツ! 攻撃を続けろ! 2回攻撃!」
「へっ、竜使いの荒いやつだ! だが、悪くねぇ!」
2回目の攻撃も、全く効果がない。
「3回攻撃!」
「うおらぁっ!!」
何度攻撃しようとも、アトラを覆うバリアに傷ひとつ付けることはできない。
「次は俺だぁ!」
それでも牙王は、アトラを攻撃した。だが、当然バリアの前に攻撃は通らない。
「2回攻撃!」
「牙王、いったい何を……」
カナタは、牙王の一見無駄とも思えるような行動に考えを巡らせる。そして、その行動の意味を裏付ける、過去の記憶が蘇る。
「まさか、これは……っ!」
アトラもそれに気づいたのか、カナタを振り返り、焦りの表情を見せた。
「カナタ……!」
その間にも、牙王の攻撃は続く。
「サンブレイズの能力発動! ドロップの《小さな氷竜グラソン》をレフトにコール!」
「いくぞー!」
「よし! グラソン、アトラにアタックだ!」
「やってやるー!」
グラソンがアトラに体当たりするが、バリアに跳ね返される。
「ぐえ」
「グラソンの能力発動! 自身をドロップに置き、ゲージ+1、1ドローだ! 助かったぜ、グラソン」
「あとは頼んだよー」
「バッツ、次はお前の能力だ!」
「集え雷帝軍、我が声の元に!」
バッツが咆哮を轟かせると、牙王のデッキがそれに呼応するように5枚飛び出し、牙王の前に並ぶ。
「デッキの上5枚から、雷帝軍のモンスターを2体、サイズ0でコールできる! ライフ1を払い《覇竜王の右腕セイントホーリーソード・ドラゴン“ライトニングフェンサー”》をセンターに、《乱射魔グロブス》をレフトにコール!」
【牙王ライフ・3→2】
「バッツのアニキと一緒に戦えてうれしいですん!」
「このオレを呼ぶってことは、こいつが欲しいんだろ?」
「ああ、グロブスの能力発動! ゲージ+1、1ドローだ! 続けて、グロブスでアトラをアタック!」
「喰らいな!」
グロブスの右手から弾丸が放たれる。
だが、それもバリアに弾かれる。
「セイントホーリーソード、次は頼むぜ!」
「いくですん!」
「アトラにアタックだ!」
「セイントホーリーソードの力、受けるですん!」
その攻撃も、バリアを破るには至らない。
「これで、8回。牙王、そういうことだね?」
「さすがカナタ、わかってるじゃねぇか。じゃあいくぜ。ファイナルフェイズ!」
牙王は手札を1枚手に取ると、高らかに宣言した。
カナタとアトラは身構える。
「本来のコストは12ゲージだが、攻撃した回数分、そのコストを減らす。このターン中、俺は8回の攻撃をした。だから、コストは4ゲージだ!」
牙王が手にしたカードが雷を帯びる。
「心の太陽に炎を灯し、俺は太陽番長となる!」
牙王の右半身が竜化し、その右腕には竜の顔を模った武装が装備される。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
バッツはとてつもなく巨大な槍へと変貌し、それを牙王が天高く打ち上げた。
「キャストォッ!」
牙王も槍を追って飛び上がる。
「必殺!」
槍に追いついた牙王は柄の部分に着地し、そのまま走って槍の下部にある持ち手を掴む。
「轟天雷槍!」
持ち手を引き、渾身の力で、その巨大な槍を地上にいるカナタへと放つ。さらに牙王も、放たれた槍を追って急降下する。
「×天アルティメットバスタァァァァァァァァ!!!!!!!」
その必殺技は、相手に20ダメージを与える。
たとえアトラが守られていようと、アトラを越えてやってくる必殺技に、今のカナタは無力である。
だが――
「僕は、まだ負けるわけにはいかないんだ! キャスト! 《アステリズム・エフェクト》!」
槍が直撃する寸前、カナタはもう一度、その魔法を使った。
再びカナタの額に雪結晶のような紋章が浮かぶ。
次の瞬間、落ちてきた槍がファイターエリアごとカナタを貫き、続けて落ちてきた牙王が槍の後ろを殴って、トドメの一撃を入れる。
「うわあああああああああああああああ!!」
【カナタライフ9→0】
カナタのライフは0となり、普通ならここでファイト終了だ。だが、倒れたカナタはゆっくりと立ち上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……アステリズム・エフェクトのもう一つの効果により、次の相手ターン開始時まで、たとえライフが0になろうと、僕はファイトに敗北しない」
「……やるな、カナタ。まさかこの一撃が防がれるとは」
「防いでなんかないよ。現に僕のライフは0だ。アステリズム・エフェクトの力で延命したに過ぎない。でも、僕は繋いだこの1ターンで、牙王、君を超える!」
「おもしれぇじゃねぇか。俺のターンは終了だ」
「僕のターン、ドロー。チャージ&ドロー。アトラ、アディショナルタイムだ。僕たちの最後のチャンス、一緒に掴み取ろう」
「当然。私はどこまでも、カナタ、君と一緒にいくよ」
「うん……行くよ牙王、バッツ」
「ああ、来い!」
「オレ達が最強、それは変わらねぇがな!」
「アタックフェイズ! アトラをライトに移動!」
アトラは飛翔し、ライトエリアに降り立つ。
「俺のセンターにいるセイントホーリーソードの防御力は11000だぜ?」
「なら、キャスト! 《クレセール・ダイレクトシュート》! 相手の場のカード全ての防御力を-10000し、このカードをアトラのソウルへ! アトラ、セイントホーリーソードにアタックだ!」
「わかった!」
カナタが足元のボールをアトラへパスする。
アトラはそれをヘディングするように、頭突きでセイントホーリーソードへと放つ。
「私達の攻撃には貫通の能力がある! これで終わりだ!」
「まだまだ! キャスト! 《太陽神の恩寵》!」
「そのカードは!?」
「このカードの効果により、このターン中、俺は効果ダメージを受けない!」
牙王の後ろに、太陽神の幻が現れる。
太陽神の幻は牙王を守るように、その両腕で牙王を包み込む。
「バル。最高のライバルに勝つために、お前の力を借りるぜ」
アトラの放ったボールがセイントホーリーソードを直撃する。だが、セイントホーリーソードはソウルガードで場に残り、貫通のダメージは太陽神により牙王へは届かない。
「なら、次は僕だ!」
跳ね返ってきたボールをカナタがダイレクトで合わせ、今度こそセイントホーリーソードを破壊した。
「ぎゃふんですん!」
「クリスタル・スパイクの能力発動! ソウル1枚を捨てて、アトラをスタンドさせる! アトラ、もう一度頼むよ!」
「任せて!」
「させるか! サンブレイズの能力発動! ドロップのグラソンをセンターにコール!」
「牙王を守る!」
「すまねぇ、グラソン」
「いいや、ファイターを助けるのがボクたちの役目さ!」
カナタのパスから、アトラがヘディングでボールを放つ。放たれたボールは、センターに現れたグラソンを破壊する。
「クリスタル・スパイクの能力発動! もう一度だ、アトラ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
「バッツ! 能力発動だ!」
「おうよ!」
バッツの咆哮に呼ばれ、牙王のデッキから再びセイントホーリーソード・ドラゴンがセンターエリアにコールされる。
【牙王ライフ・2→1】
「牙王は僕たち雷帝軍が絶対に守るですん!」
弾丸のようなボールがセイントホーリーソードに直撃するも、ソウルガードで場に残る。
「クリスタル・スパイクの能力発動! アトラ!」
「センターは開けてもらうよ!」
アトラの放ったボールが今度こそセイントホーリーソードを破壊する。
「ぎゃふん再びですん!」
跳ね返ってきたボールを、アトラがキャッチした。
「もうクリスタル・スパイクのソウルはない。アトラ、君の力を貸してほしい」
「もちろん!」
「アトラの能力発動! ソウル1枚を捨てて、クリスタル・スパイクをスタンド!」
「カナタ、これで決めよう!」
アトラはキャッチしたボールを、カナタへとパスする。
カナタは牙王を見据え、声を張る。
「牙王、今日こそ、僕たちが勝つ!」
「来い、カナタ!」
「これで最後だ! たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カナタは、アトラからパスされたボールを、ライバル未門牙王に向けて、渾身の力で蹴った。
目にも止まらぬ剛速球が、
センターエリアを抜け、
牙王に――
「――――!」
◇ ◇ ◇
翌日。
日本を発つため、空港に来ていた牙王を呼び止める声があった。
「父さーん!」
「友牙!?」
牙王の息子、《未門友牙》は駆け足で牙王の元にやってくる。
「はぁはぁ、間に合った」
「何しに来たんだ?」
「昨日、大宇宙カナタさんとファイトしたんだって!?」
「ああ。でも、どうしてそのことを?」
「母さんから聞いたんだ! どうして言ってくれないんだよ、オレも見たかったのに!」
「悪りぃ悪りぃ、でも、アイツとは何の気兼ねもなしに、全力でファイトしたかったんだ」
「で、どっちが勝ったの?」
「それは秘密」
「なんだよーケチだなー」
「そう言うなって。でも、アイツは強かったよ。すげー強かった。それはもう、俺の想像以上だったぜ」
「オレもいつか、ファイトしてみたいな!」
「ああ、その時はコテンパンにやられて来い!」
「いーや絶対勝つね。だってオレ、父さんにも勝ったし」
「げ。お前それいつまで言うつもりだ? 次ファイトする時はボッコボコにしてやるからな!」
「次もオレが勝つ!」
「いや俺が勝つ!」
睨みあう牙王と友牙。
少しの間をおいて、牙王は友牙の頭に手を乗せた。
「……で、お前はそれを言うためにわざわざ来たのか?」
「いや……父さんに伝えたいことがあって」
「なんだ?」
「俺、前まではどうして父さんがそこまでバディファイトにのめり込むのかわからなかったんだ。でも、ランマに誘われてバディファイトを始めて、それからいろんな奴とファイトして、友達になって、大会にも出て、どんどん面白くなって――」
友牙は一息つくと、牙王の目を正面から見上げる。
「父さん」
「ん?」
「バディファイトって、すげー楽しいんだ!」
「……だろ?」
牙王と友牙は、満面の笑みを浮かべる。
最高のライバルと出会い、
最高のファイトを経て、
そして何より最高の《相棒》と出会えて、
親子の絆は、より深まったのである。
終
<文:校條春>