バディファイト外伝 「タスク&ガイト」

バディファイト外伝 「タスク&ガイト」

 

 夕暮れ時。
 太陽は地平線の向こうへと沈んでいき、町に夜が訪れようという頃。
 《龍炎寺タスク》は、バディポリス本部の屋上で、沈みゆく陽を見つめていた。
「……きたか」
 タスクのちょうど反対側に、フードを被った一人の男が現れる。
「龍炎寺タスク。終わったようだな、例の事件は」
「ああ。未門友牙とガルガンチュア・ドラゴンが、時の神を完全に撃破した。それで、この一件は終了だ」
「そうか……なら、オレの得た情報はもういらないか?」
 男はタスクのすぐ後ろまで来ると、フードを取る。
「いや、聞かせてもらうよ、ガイト」
「ふん……まぁ、オレもにわかには信じられないことばかりだがな。少しややこしい話になるぞ」
「かまわない」
 《黒渦ガイト》はフェンスに背を預けると、星が瞬きだした空を見上げながら、話し出す。
「……この世界を生み出した神、ドラゴッド。そして、その中でも特に強大な力を持つ《時の神ジ・エンドルーラー・ドラゴン》。奴はこの世界を創り直そうとした。だが、それに反発したのが、《空間の神スペースルーラー・ドラゴン》と呼ばれるドラゴッドだ」
「空間の神?」
「ああ。時の神と同等の力を持つドラゴッドらしい。時の神と空間の神は、争った。“こことは別の宇宙”でな」
「……別の宇宙で、争った? どういうことだ」
「オレも半信半疑だと言っただろう。だが、ようするに、この世界と似て非なる歴史を辿った世界、いわゆる“平行宇宙”というやつらしい。つまり、時の神と空間の神は、オレ達のいるこの世界に来る前に、“別の世界”ですでに闘っていたんだ」
「それで、その闘いはどうなった」
「ほぼ引き分け。だが、時の神は最後の最後で、空間の神の“力”の一部を奪い、こちらの世界へと逃げてきた。そして、己の力を取り戻し、再び世界を創り直すために、同じ目的を持つ神宮時計に接触した。あとは知っての通りだ」
 ガイトが話し終えると、タスクは当然の疑問を投げかける。
「確かに、にわかには信じがたい情報だが……誰からこのことを?」
「本人だ」
「なんだと?」
「だから、“空間の神”本人からだ」
「……空間の神も、こちらの世界に来ていると?」
「もう消えたがな。時の神との闘いで致命傷を受けた空間の神は、最後の力でこちらの世界へとやってきた。そして、自分の力を有力なモンスターたちに託していたんだ。時の神を何としても止めるためにな。その中で、オレとアビゲールの前にも姿を現した。まぁ、オレたちは断ったが」
「……ドラゴッドに、平行宇宙。どうやら僕たちが思っていた以上に、途方もない事件だったようだな……」
「かもな」
 タスクは自分の掌を見つめ、ぐっと握る。
「……僕は、僕の正義を貫くためにバディポリスとなり、今もここにいる。だが、今回の事件、我々バディポリスはあまりに無力だった。こうして、全てが終わった後に真実を知るしかない。それではあまりにも……遅い」
「仕方ないだろ。なんせ、今回は創世の神々が相手だ」
「だとしてもだ。何かができたはずなんだ……」
「なら、強くなるしかない」
「……強く?」
「そうだ。今のままでダメなら、もっと、もっと強くだ。悔しい思いの分だけ、前に進むしかない」
「……一つ、聞いてもいいかな」
「なんだ?」
「ガイトはどうして、空間の神の力を受け取らなかったんだ?」
「ふん、そんなの決まっている。オレとアビゲールは、自ら勝ち取った力にしか興味はない」
「そうか……」
 タスクは少し考えこむと、意を決したように自らのデッキを取り出した。
「ガイト、僕とファイトしてくれ」
「は? なんで――」
 突然のことにガイトも動揺するが、タスクの瞳を見て、彼の覚悟を感じとる。
「――いいだろう。その挑戦、受けて立つ」
 ガイトも自らのデッキを取り出す。
 それを確認して、タスクはファイトフィールドを展開させた。ビルの屋上だった場所は、見る見るうちに姿を変え、ファイトステージへと変貌する。Ⅴボードが手元に現れると同時、両者ルミナイズした。

「光輝け! 世界を守る黄金の竜! ルミナイズ、ヒーローズドラグナー!」

「奏でるのは、キサマを葬る死の鎮魂歌レクイエム! ルミナイズ、コクソウノ黒竜!」

「「バディーファイッ! オープン・ザ・フラッグ!」」
 タスクがフラッグを表にする。
「スタードラゴンワールド!」
 続いて、ガイトがフラッグを表にする。
「ダークネスドラゴンワールド!」

 ファイトは、ガイトの先攻で始まった。
「オレのターン。ドロー、チャージ&ドロー! 《黒印竜アールボウ》をセンターにコール……さぁ、お前の運命を決める舞台の開演だ。設置、《第一の黒葬印ファーストシンフォニー序曲・鎮プロローグ‐》」
 ガイトの頭上に黒竜の紋章が出現し、その中央に『鎮』の文字が浮かび上がる。ゆっくりと静かな旋律が、ファイトステージ中に鳴り渡る。
「その効果により、オレのライフ+2」
 【ガイトライフ・10→12】
「始まってしまった死の演奏会にインターバルなどない。お前は逃れられない……! 設置、《第二の黒葬印セカンドシンフォニー諧謔曲・魂スケルツォ‐》」
 ガイトの頭上に再び黒竜の紋章が出現し、今度は『魂』の文字が浮かび上がる。旋律に深い重低音が加わり、ファイターの脳を揺らす。
「その効果により、1ドロー。続けてキャスト。《ブラック・リチュアル》。アールボウを破壊し、ゲージ+1、ライフ+1、2ドローだ。さらに、破壊されたアールボウの効果で、ゲージ+2、ライフ+1」
 【ガイトライフ12→14】
「ゲージ2を払い、装備。《二奏鎌デュオアビスゲールシザーズ》」
 刃が二重に分かれ、ハサミのようになった漆黒の鎌が、ガイトの手に現れる。ガイトは手にしたゲールシザーズを地面に突き刺すと、宣言する。
「ファイナルフェイズ……!」
「アタックもせずに、ファイナルフェイズだと!?」
「これが、お前に捧げるレクイエムだ。ライフ2を払い、キャスト。《第三の黒葬印ラストシンフォニー終曲・歌エピローグ‐》」
 【ガイトライフ・14→12】
 ガイトの頭上、3つ目の紋章が現れ、そこには『歌』の文字が浮かび上がる。響く旋律に高音が加わり、ファイトステージを支配する。
「……これでオレのターンは終了だ。この時、ゲールシザーズの効果により、オレのライフ+5する」
 【ガイトライフ・12→17】

「では、僕のターン――」
 タスクが自分のターンを宣言した瞬間、響き渡る旋律が最高潮の盛り上がりを見せる。
「ターン開始時、エピローグの効果により、お前のライフを3にする!」
「なんだって!?」
 【タスクライフ・10→3】
「さらに、スケルツォの効果によりお前はライフを回復できず、プロローグの効果によりお前の場のカード全ての攻撃力と防御力を-3000する」
「くっ。だが、まだ負けたわけじゃない。ドロー、チャージ&ドロー! 《“BPバディポリスエージェント”超新星骸ノヴァセメタリーサーチレムナント》をレフトにコール! その効果により、デッキから星のアイテムを手札に加える。続けて《大竜装機ビゲスト・ドラグアームズトリプルバスター》をセンターにコール!」
 ネオドラゴンを強化する機械生命体、竜装機。3門の大きな機械砲を有する、トリプルバスターがライトに出現する。
「いくぞ! ゲージ1を払い《“BPバディポリスエージェント”黄金星竜ゴールデンドラグナージャックナイフ》をライトにバディコール!」
「ウオォォォォ!」
「星合体!」
「ジャックナイフ・トリプルバスター!」
 センターエリアに降り立った黄金のネオドラゴン、ジャックは、すでにいたトリプルバスターを自らの武装として装備し、合体した。
「タスク、このファイトに何を見る」
「もちろん、僕たちの未来だ」
「ほう。ならば、全力を持って勝利しなくてはな」
「ああ! 《“BPバディポリスエージェント”超新星竜ノヴァドラグナーセーフティビーコン》をライトにコール! さらに、ゲージ2を払い、《BPバディポリスエージェント用双星銃“スター&ブレイブ”》を装備!」
 タスクの両手に、一対の銃が現れる。
「キャスト、《スタージャック・リペア》。ドロップのカード1枚をジャックのソウルに入れ、ゲージ+1。さぁ、攻撃開始だ!」
 タスクの号令で、ジャック、サーチレムナント、セーフティビーコンが攻撃態勢に入る。
「セーフティビーコンの効果で、手札1枚をジャックのソウルに入れ、ライフ+1、1ドローだ!」
「ライフ回復はできない」
「承知の上さ。ジャックの効果で、僕の場のカード全ては効果で破壊されず、レストされず、攻撃力+10000、打撃力+2となる! さらに、トリプルバスターの効果によって今のジャックの打撃力は5! ジャック、ファイターにアタック!」
「行くぞ!」
 ジャックが、装備した大砲で狙いを定める。
 そこですかさず、ガイトは手札のカードを使った。
「お前達の攻撃では、オレのライフを削り切れぬ運命だ。ライフ2を払い、キャスト! 《ディサイド・デスティニー》。セーフティビーコン、ジャックナイフ、スター&ブレイブの打撃力を-3だ」
【ガイトライフ・17→15】
「トリプルバスターキャノン!」
 ジャックに装備された3門の大砲から、エネルギー弾が発射される。エネルギー弾はディサイド・デスティニーの呪いによって威力を弱めるが、それでもガイトに到達する。
「ぐっ……!」
【ガイトライフ・15→13】
「ジャック、2回攻撃!」
「次弾、発射!」
 再びエネルギー弾がガイトを襲う。
「ぐぅっ……!」
 【ガイトライフ・13→11】
「続け、サーチレムナント!」
 唯一呪いを受けなかったサーチレムナントが、ガイトにレーザー攻撃を放つ。
 【ガイトライフ・11→8】
「セーフティビーコン、お前もだ!」
セーフティビーコンが白く輝く光輪を放つが、
「ゲージ1を払い、キャスト! 《バディブロック》! このターン中、4回目以降の攻撃はオレには届かない」
 半透明の障壁がガイトの前に現れ、セーフティビーコンの光輪を弾いた。
「なら、これならどうだ!」
 タスクは右手に持った星銃《スター》の引き金を引く。
 放たれた弾丸はセーフティビーコンの頭上を通り抜けガイトに迫るが、当たる直前で障壁に阻まれる。
「攻撃は届かないと言ったはずだ」
「スター&ブレイブは、バトル終了時に1ドローし、さらにライフ+1、相手に1ダメージを与える効果がある。ライフは回復できないが、効果ダメージは受けてもらう」
 【ガイトライフ・8→7】
「くっ……だが、その程度ではオレは負けんぞ」
「もちろんわかっているさ。だからもう一度だ!」
 タスクは左手に持った星銃《ブレイブ》の引き金を引く。
 弾丸は障壁に弾かれるが、ガイトに効果ダメージを与える。
「ちっ……!」
 【ガイトライフ・7→6】
「キャスト、《アイリス・ライラック》。デッキの上3枚から1枚を手札に、残りをゲージに置く。さらにキャスト! 《into the future…》! スター&ブレイブをスタンドさせ、再攻撃!」
 再び、効果ダメージがガイトを襲う。
 【ガイトライフ・6→5】
「ガイト、君に次のターンは与えない。ここで決める! ファイナルフェイズ!」
「……っ!」

「ゲージ3を払い、キャスト!」

 空から雲を突き抜けて、青と赤の2門の大砲がジャック目掛けて降ってくる。その大砲は、合体しているトリプルバスターよりもさらに巨大だ。ジャックの両肩へと降りた大砲は、ガイトに照準を合わせる。
「タスク、いつでもいけるぞ!」

「必殺! 《シャイニング・フルリべレイト・ストリーム》!!!」

 タスクの声と共に、両肩の大砲から特大の光線が発射される。
 だが、それと同時、ガイトも手札のカードを素早く使っていた。
「ゲージ1を払い、キャスト。《尊キ犠牲》。ゲールシザーズを破壊し、ライフ+2、1ドロー」
 【ガイトライフ5→7】
 ガイトのライフが回復した、次の瞬間。
 ファイターエリアに光線が直撃した。
「ぐわあああああああああああ!」
 【ガイトライフ・7→2】
 ガイトは大きく後方に飛ばされながらも、膝はつかない。フルリべレイト・ストリームを受けてなお、ガイトのライフは残っていた。
「ライフ回復手段を残していたか」
「……オレのライフは削り切れない運命だと言っただろう」
「僕のターンは終了だ」

「オレのターン。ドロー、チャージ&ドロー……このままアタックフェイズだ」
「モンスターをコールしないだと……?」
「いや、オレのバディは漆黒の闇より現れる……来い、アビゲール!」
「ようやく俺の出番か、ガイト!」
 ガイトのセンターエリアに突如としてブラックホールが出現し、その闇の中から、アビゲールが姿を現した。
 【ガイトライフ・2→3】
「オレのアタックフェイズ開始時、場に《黒葬》が設置されているならば、ドロップゾーンの《黒葬の執行竜アビゲール》はノーコストでコールできる」
「だからモンスターをコールしなかったのか」
「ああ。さらに、アビゲールは相手のセンターを無視してファイターをアタックでき、その攻撃は無効化されず、ダメージも減らされない」
「それで勝ったつもりなら無駄だ。ジャックの効果により、君の場のカード全ては攻撃力-10000、打撃力-2となる。攻撃が届いたとしても、打撃力が0ならば意味がない」
「確かにそうだ……だが、効果ダメージなら届く! ファイナルフェイズ!」
「なに!?」
 ガイトは手札を1枚手に取り、掲げる。

「必殺コール! ゲージ3を払い、アビゲールを必殺モンスターに!!」

 アビゲールは飛び上がり空中で制止すると、まるで宇宙と繋がっているのかと思わせるような漆黒の腹部を、大きく開いた。すると、腹部にはドラゴンの顔を模した巨大な鎧が現れる。
 次の瞬間、腹部からはとてつもない咆哮と共に、万物を破壊する衝撃波が放たれた。

鎧装器アームドハウルブリンガァァァァァァァ!!!!!」

 衝撃波はデッキを破壊し、
 ゲージを破壊し、
 そして、
 タスクのライフを破壊した。

「……っ!!」

【タスクライフ・3→0】

◇     ◇     ◇

「ありがとう、ガイト」
「どうした、いきなり」
 屋上に戻ったタスクは、ガイトに握手を求めた。
「君のおかげで、忘れていた気持ちを思い出したよ」
「なんだ、それは」
 ガイトは腑に落ちないながらも、差し出された手を握り返す。
「僕はバディポリス隊員となり、今では長官と呼ばれるまでになった。重くのしかかる責任、思い通りにいかないことへの焦りで、頭がいっぱいだった……でも君は、『強くなるしかない』と言った」
「ああそうだ。過去の己を悔やむのなら、強くなるしかない」
「うん。君に負けて、はっきりとわかった。僕たちはまだ“未熟”だ。だからこそ、今よりももっと“強く”なれる。そう確信した」
「そんなこと、今さらだな。オレ達の成長に限界などあるはずがない」
「その通りだ。僕たちはまだまだ知らないことや、できないことの方が多い。だからこそ、互いに助け合い、日々努力する。多分それは、どんなに年を重ねようと、変わらないんだ」
 真っすぐなタスクの瞳を見て、ガイトは笑みをこぼす。
「ふっ。気は晴れたようだな。オレはもう行くぞ」
ガイトはタスクに背を向けると、反対側のフェンスに飛び乗る。
「ガイト、今度また、今日のリベンジをさせてもらうよ」
「ふん。いつでも望むところだ」
 ガイトは振り向かないまま、屋上から飛び降りた。
 タスクは心配するそぶりもなく、空を見上げる。
その背後からはアビゲールの力強く羽ばたく音が聞こえていた。
「……ガイトももうすっかり大人だな」
「いや僕は、もともと彼には教えられっぱなしだよ。ジャック」
相棒バディ》、それは今タスクの横に寄りそうジャックと同じように、ガイトにとってもかけがえのない《翼》なのだ。
 空はすっかり夜となり、星々が瞬いていた。

 

 終

 

<文:校條春>

 

《“BPエージェント”黄金星竜 ジャックナイフ》と《黒葬の執行竜 アビゲール》は神バディファイト アルティメットブースター第6弾「バディアゲインVol.3~現役!GREAT・オーバーエイジ~」に収録!

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